精揉機の魅力(9-1)

1月号は「永谷宗円」「青製」「木枠助炭」、2月号は「手揉手法の進展」、3月号は「全国各地の製茶」、4月号は「茶業統計」、5月号は「米国における日本茶」「明治時代の製茶機械の発展」、6月号は「精揉機が普及した時代」「大正10年の式名別機械台数」「大正時代の製茶機械の進展その1」、7月号は「大正時代の製茶機械の進展その2」8月号は「大正時代の製茶機械の進展その3」について調べました。9月号は「大正時代の製茶機械の進展その4」を調べます。


「15」「大正時代の製茶機械の進展その4」(大正11年~大正14年)

(46)静岡県茶業組合聯合会議所の「精揉機試験成績」「茶業界」第17巻第8号(大正11年、1922年)です。
「大正11年5月10日より五日間本所小鹿研究所に於て精揉機試験を施行した。一、八木式(川崎辰平)127点、二、高林新式(松下工場)126点、三、第一臼井式(臼井喜市郎)125点、四、第二臼井式(臼井喜市郎)124点、五、竹田式(竹田好太郎)124点、六、丸茶式(宮脇弥惣治)121点、七、橋本式(橋本馬吉)120点、八、志田式(柴田錠司)119点、九、栗田式(栗田工場)114点。本試験場に於ては以上の如き成績を得たりといえど、之は只一地方に於て短時日に施行せる試験なるが故に、単に本成績を以て機械の良否を決定するを得ざるは勿論、絶対正確を期し難けれども当業者の参考資料として茲に之を発表するものなり。」
大正11年、精揉機試験の結果です。八木式、高林式、第1臼井式、第二臼井式、竹田式、丸茶式、橋本式、志田式、栗田式の順でした。

(47)瀧閑村は「茶業時評」「茶業界」第17巻第10号(大正11年、1922年)で次のように書いています。
「製茶機械の種類…本所で調査した県下茶業者の使用している製茶機械統計に於て、吾人は二つの新しい事実を発見し得た。其一つは各機械共に多種多様。粗揉機は51種の大きに上り、葉打機は38種、揉捻機は29種、精揉機は23種と云う数に達している。其二は、現在に於て最も多く使用されている機械は、優良なる品質の茶を製出するよりは、製造力の多きを目的として製造された機械である。年々の市況に依って見ると、現在に於ては多量の製造を成し得ることが最も都合の良い事で、兼ねて最も利益のあるのであるから、教えずして是に就くのは蓋し已む無き事である。茶業の改良に志す者は、是に依って生産家の帰趨を考察して、その対策を研究しなければならない。」
製茶機械の種類が多すぎます。粗揉機は51種、葉打機は38種、揉捻機は29種、精揉機は23種です。現在の機械は優良な品質の茶を製造するよりは、多量の茶を製造する目的で製作されています。米国への輸出が激減した大正11年に於ても、静岡では品質より製造量に重きを置いた製茶機械が主力です。茶業の改良を志す者は、その対策を研究しなければならないと説いています。

(48)「静岡県茶業史続編」289p(大正11年、1922年)「木製、竹製揉盤」で次のように書かれています。
「大正11年5月、各機械業者から精揉機を提供せしめて精細なる試験を行った。欧州大戦以来の精揉機は量的に大型揉手のものが一般に歓迎されていたが、試験の結果は、大型よりも寧ろ小型揉手の方が成績良く、その構造に於いても揉盤の如きアルミニューム製よりも木製、竹製のものが品質的に好成績であることが判った。」
精揉機は小型揉手で木製竹製揉盤が品質的に良いことが判明した。

(49)鈴木孫太郎は「此の茶業是に猛進せん①」「茶業界」第18巻第6号(大正12年、1923年)で次のように書いています。
「之を精揉機製に見るに形を締まらす為に、或は形を伸ばす為に錘を掛け、火を強くして行くので、之に依って風味上の価値を傷つけること少なからざるのみならず、分に秒に粉末が増えていくのである。其の為に生産家は現に粉引として百分の五くらいの犠牲を払っており、再製家は歩切れが多く、裾の穢いのに閉口しているのである。◎そして又、所謂形状を良くすると云う意味で使用されている揉捻機に於ても、少なからず粉末が出来るのである。◎精揉機使用の場合でも、少し早上げにして居れば粉末の出方も少なく、色沢も風味も良い茶が出来るのである。彼の内地向と称する茶が精揉機を早めに出して乾燥を充分にし、風味を生命として高価に販売し居るに比し、貿易向の茶が其形状を真直ならしむる為に時間を要して生産費を増大し、更に飲料品としての価値を損しつつあるは、一大痛恨事と云わねばならぬ。只此処に因襲的惰力と云うものが所謂形状を主としていると云う矛盾から逃れ出ることが出来ぬのである。私は思う。吾人茶業者は此矛盾を除去する為に全力を挙げて進まなくてはならぬと。日本茶業者は一斉に立ちて、此の矛盾の除去に尽力したいと思う。此の矛盾を知りつつ因襲にとらわれて改むることなければ、遂に印錫の質実なる茶業者にその販路を侵され盡す様になるのは明らかな事である。」
「此処に因襲的惰力と云うものが所謂形状を主としていると云う矛盾から逃れ出ることが出来ぬのである。真直ぐに伸ばす為に風味を犠牲にする必要が何処に在るかを考えなければならない。」大正12年(1923年)に之が書ける鈴木孫太郎は素晴らしい。国内向けは、真直ぐに伸ばす為に風味を犠牲にする必要は何処にもありません。


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