精揉機の魅力(9-2)

(50)国立茶業試験場の「機械製茶法」(大正14年、1925年)には次のように書かれています。
「本機械製茶法の要領は、需要の趨勢に適応すべく、製茶の香味と色沢とに最も重きを置き、其形状は肉太く重く丸捻れにて固く締れるものを得んとするにあり。従って従来一般の機械製茶法の形状本位にして其製品は瘠せ形にて徒らに伸長に重きを置き且つ色沢の黒緑なるを欲したる為、概して蒸度及び粗揉の程度をひかえ揉捻及び精揉に重きを置けるに比し、本法にては一般に蒸度を進め粗揉を十分にし、揉捻及び精揉の応用程度を比較的短縮せり。」
この一文にはすごい事が書かれています。「需要の趨勢」とは海外輸出が衰退し、輸出向き製茶から内地向き製茶に舵を切らざるを得ない事を意味します。そのために、「従来一般の機械製茶法」=「輸出向き製茶」=「形状本位」=「蒸度と粗揉を控え、揉捻、精揉に重きを置く」から、「本機械製茶法」=「内地向き製茶」=「内質本位」=「蒸度、粗揉を十分にし、揉捻、精揉を短縮する。」と云っています。私もこの論に賛成です。

(51)国立茶業試験場の「機械製茶法…精揉」(大正14年、1925年)には次のように書かれています。
「精揉…精揉は手揉製法に於ける転繰(デングリ)操作の方式を応用したるものにして、其の目的は主として製茶の形状を整えるにあり。故に精揉機の使用に際しては可也短時間内に製茶の品質を損せずして其の形状を整え之を適度に乾燥する様心掛くるを肝要なりとす。…精揉時間は概して45分間内外を標準とする。而して形状、色沢に重きを置く場合には50分間内外、香味に重きを置く場合には40分間内外となすべし。」
精揉は手揉製法の転繰(デングリ)操作を応用したものです。「形状、色沢に重きを置く場合には50分間内外、香味に重きを置く場合には40分間内外となすべし。」と云っています。

(52)鈴木孫太郎は「売行のいい茶を造るには(四)」「茶業界」第20巻第9号(大正14年、1925年)で次のように書いています。
「どういう茶でも、其茶に適した乾し度と云うものがある。其適当の時を逸したならば、其茶の形状も品質も価値を落として仕舞うのである。然るに多くの場合、この適当の乾し度と云うものが閑却されていることは甚だ遺憾である。形状は兎に角、茶の風味と云うものは、機械ならば粗揉より再乾迄、手揉ならば葉乾しから揉切迄の間に大体の優劣が定まるもので、実を云うと其頃迄に価値が定まっていると云ってもいい位だ。手揉の仕上揉も、機械の精揉機も、形状を伸直せしむるのと緊捻せしむる為には必要であるが、余り長く揉むと、風味は却って劣るものである。それ故精揉機の使用は大体の場合に使い過ぎた時に弊害多く、早出しの場合は形状の伸長は欠けても嫩芽が良く保存され、硬葉が変わらないから茶がミルク見えて、有利に販売される場合が多い。然るに精揉機で持ち過ぎた場合には、硬葉の色が赤黄色に変わって来て、殊更目立って、茶が扁平になりがちなものであるから、多くの場合に売り負けるのである。…であるから、バスケ向の茶として売って除ける場合の外は、精揉機の使用は長きに失しない方が良い。内地向の茶に於ては形状の伸直緊捻と云うよりも、色沢の鮮碧、香味の優美を要求するから、精揉機を早出しにした方が毎時有利に売り捌くことが出来るが、輸出向の茶にあっては歩減りの関係から、釜茶にありても形状の緊捻を要求するから、堅く捻ると云うことを忘れてはならぬ。然し堅く捻ると云うことと伸ばすと云うこととは自然趣が違うのである。堅く捻るには精揉機に於て火の使用具合と、錘の掛け方によって出来るのである。火の弱いのを使って揉む時は、茶は揉みよくなるが締りが悪くなるものであって、ややもすると茶が扁平になる嫌いがある。内地向きの香味を主とする場合には、火は比較的弱いものを使う方が良いが、輸出向きの茶にありては火度は相当に強く持たせて形を締めることを忘れてはならない。」
「形状は兎に角、茶の風味と云うものは、機械ならば粗揉より再乾迄、手揉ならば葉乾しから揉切迄の間に大体の優劣が定まる。手揉の仕上揉も、機械の精揉機も、形状を伸直せしむるのと緊捻せしむる為には必要であるが、余り長く揉むと、風味は却って劣る。」と鈴木孫太郎は云っています。私もこの論に賛成です。

(53)鈴木孫太郎は「売行のいい茶を造るには(四)」「茶業界」第20巻第9号(大正14年、1925年)で次のように書いています。
「精揉機の錘の掛け方であるが、風味の点から見ても、形状の点から見ても、最初の錘はなるべく我慢して早く掛けないようにしなくてはならぬ。錘を早く掛け過ぎると茶が塊りになって旋転せぬ為に、精揉機で余分の時間を要する様になり、茶が磨りむけた様になって、醜くなるものであるから殊に気を付けなくてはならぬ。そして錘を掛けても塊が出来ない様になったならば、今度は力を緩めぬ様に適当に錘を増して行かなくてはならぬ。その揉まれている茶に触って見て、肌触りが熱過ぎもせず、冷め過ぎても居ず、茶の葉が一本一本に触る様に感ぜられるものが良いのである。そして、形を締まらせ様とするならば、錘を掛けて置く時間をやや長く、色沢風味を主とする場合には、錘の外し方をやや早くして行けば良いのである。精揉機の早出しと云うのも、此の肌触りが良い様な風になって居らぬと、早出しの効果がなく徒に茶の形が曲がるばかりで何の取り柄もない茶になって仕舞うものもある。それ故精揉機から早出しにしようとする場合ほど、茶の肌触りが良い様に製造して行かなくてはならない。何にせよ、物には適当な時があって、早出しにもどれだけかの弊害があるのは当然であるが、現在の製茶家の多くが精揉機で持ち過ぎている弊があるに依って、茶の価値を損していることが少なくないのであるから、殊に早出しと云うことを述べて来た訳である。故に其の辺に思い違いの無い様にして貰わなくてはならぬ。唯精揉機から早出しした場合には茶が曲がるとか、手触りが幾分軽いとか云う弊害があるが、茶が嫩く見えるとか、嫩芽が助かっているとか、水色が良いとか云う点に於て長所を認めることがあるから、一概に捨てたものでもないが、持ち過ぎた場合にはどの点から見ても一向取り柄がないのであることを再言して置きたい。」
「精揉機の錘の掛け方は、最初の錘はなるべく我慢して早く掛けない。色沢風味を主とする場合には、錘の外し方をやや早くして行けば良い。精揉機の持ち過ぎは弊害が多い。精揉機の早出しは弊害もあるが長所も多い。」と鈴木孫太郎は云っています。


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