3、合組を行う人の前提条件

合組は誰が行なっても可能と云う行為ではありません。合組を行う人の前提条件は二つあります。
一つ目は茶審査能力で、二つ目は茶の知識です。
茶審査能力は個人差が非常に大きく、またその人が持って生まれた能力(天賦の能力)の部分が非常に大きな分野です。審査能力の優れた人は茶業界に入って、1年目、2年目で茶歌舞伎や茶審査技術競技大会で上位の成績を得られ、其の後も常に上位の成績を納められます。
最初何年間か下位の成績の人が訓練によって審査能力が上がり、常時上位を占めるようになることは殆どありません。
審査能力は天賦の部分が多く、訓練によって増加させることが困難な能力であると云う事です。

茶審査には人間の持つ五感の内、視覚、嗅覚、味覚、触覚を使います。(聴覚は絶対使用してはいけません。)
この4感の内人間の情報収集能力の約8割を占める視覚は茶の審査においては非常に個人差の少ない分野です。約8割が個人差の少ない分野なら、誰がやっても同じと考えがちですが、茶の審査の場合は残り約2割の内、嗅覚と味覚が茶の本質を判断するうえで、非常に重要な能力になります。
それは、「茶は見るものでは無く、飲み物」だからです。現在日本国内の多くの品評会では、香気何点、滋味何点と香気と滋味を分けて採点していますが、私の考えでは香気と滋味を厳密に区別して判断するのは人間では不可能で、香味として感じているものだから香味として採点するのが本当だと思います。(香気と滋味を分けて判断することが出来る人がおられたら、すみません。)
この香味を判断する嗅覚と味覚は非常に個人差があり、訓練によってこの能力を向上させることが非常に困難であると云う事が第一です。

二つ目は茶の知識です。嗅覚と味覚が優れていて、色々な香味を識別する能力が高い人でも、茶の知識が無いと、その香味がどのようにして生まれた香味なのかを判断することが出来ません。
その香味が生まれたのは、品種によるものなのか、気候風土(産地、土壌、標高など)によるものなのか、栽培によるものなのか、製造によるものなのか等々を判断できるようになるには、相当の学習と経験が必要です。
私の経験からいうと最初の書物での学習はあまり役に立ちません。色々な経験を積んでから、書物で復習するのが良いと思います。経験は実際に現場を踏まなければいけません。
栽培、製造、仕上加工、審査の現場を数多く経験することが大切です。
栽培、製造は茶生産家で、仕上加工は茶問屋で修業するのが一番です。審査の現場は茶市場が一番です。
(私は宇治の茶商なので毎年京都茶市場で茶の入札を行います。京都茶市場では例年4月下旬の初市より7月末の止市まで60回ほどの一番茶、二番茶入札会が行われ、碾茶、玉露、かぶせ、煎茶、刈り直しなどの荒茶が一万点以上販売されます。
その1万点は刈り直し以外は全て浸出液も展示されています。しかし、私は自分流で審査したいので、入札したいと思う荒茶はすべて自分独自で審査します。少ない日は6点で多い日でも48点です。
茶市場の拝見場で審査する場所もほぼ一定の場所で行います。会社に於ても乾燥火入れの茶は毎日1回は試験します。これ迄48年間の茶業経験で、少なくとも50万点以上の荒茶を拝見し、5万点以上の浸出審査経験をしてきていると思います。)

また、茶業界で品質が良いとされている茶を数多く経験することも必要です。こうして経験を増やし、茶の知識を増やすことにより、茶の審査能力の不足をある程度補う事は可能です。


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